「サウスポー・キラー」を読んだ
水原秀策著の、プロ野球界を舞台にしたミステリー小説。
宝島社の「このミステリーがすごい」大賞の第3回受賞作らしい。
ということは、受賞は2005年か。
ちょうどプロ野球の開幕シーズンだったことと、 解説に「ディック・フランシスの世界を狙った」とあったことから手にとった。
何をかくそう、ディック・フランシスは私の愛好する作家である。
たしかに、叙述はディック・フランシスを連想させる。
一人称、ハードボイルドタッチな語り口など。
主人公はプロ野球の投手だ。沢村という。
所属する球団は、日本一の人気球団で、野生の勘で采配するかつての国民的名選手が監督をつとめている、という設定。
名前は変えているものの、長嶋茂雄が監督だったころのジャイアンツをモデルにしているのは明白だ。
たまたま、今のジャイアンツに沢村という名前の投手がいるので、気分はよくない。
しかし、こちらの沢村はもともとあまりプロ野球に興味がなく、日本一の人気球団に入るということについても感慨がなかったという変わり者。
ジャイアンツからの指名でなければメジャーに行く、といった現実の沢村とはだいぶ違う。
このミス大賞をとっているだけあって、八百長疑惑を扱ったミステリー仕立て。
身に覚えのない八百長の疑惑をかけられた沢村が、自らの潔白を証明するために行動する様を描いている。
しかし、ミステリーとしての質は、せいぜいテレビの二時間サスペンス程度。
疑惑の真相も、決して納得できるものではない。
むしろ、この主人公、このタッチを生かして、本格的な野球小説にしたほうがよかったのではないか。
ミステリーとは関係ない、野球の描き方がめっぽう面白い。
ノンフィクションの名作「江夏の21球」ばりの、野球フィクションができたのではないかと思ったりする。