コンテンツ評論 テレビ番組評

#あまちゃん 第23週「おら、みんなに会いでぇ!」再見

2014/01/03

あやうく震災を逃れたユイの目に映ったものは

あやうく震災を逃れたユイの目に映ったものは

東日本大震災が起こった。アキは東京にいて初コンサートのリハ中。ユイは東京へ向かう北鉄の中にいた。

この週は「あまちゃん」でもっともドラマチックな出来事を、しかし淡々と語り続ける。
無事とは知らされたものの、北三陸の人々がどうなったか具体的にアキは知らないまま、アイドル業を続ける。アキの心の中で北三陸に帰りたい思いが募っていることは彼女の表情が物語っている。しかし、それを口には出さないまま、アキは東京に居続ける。

二~三日スケジュールを空けて、様子を見に帰るのが普通の行動だろう。だが、アキはそうしない。

だから視聴者も待たされる。視聴者も、北三陸がどうなったか知りたい、だが、それはアキが行動を起こしたときにしか知ることができないのだ。

ようやく、アキは「帰りたい」と言い出す。春子は、最初自分も一緒に帰るつもりだった。だが、アキは「東京に残ってくれ」と春子に頼む、震災以来パッとしなくなってしまった鈴鹿さんの面倒を見ることを口実にして。

第134回。ようやく一駅区間の無料運行をはじめた北鉄を、沿線の住民が歓迎してくれるシーン。「銀河鉄道999」をBGMとした素晴らしいシーンなのだが、これがシナリオにはまったく記述されていない。演出サイドから発案したシーンなのだろうか。

スリーJのオフィス、鈴鹿ひろ美が「そろそろ仕事してください」と言う春子に駄々をこねるシーン。後半がカットになっていた。春子が「お芝居以外に、鈴鹿ひろ美さんは何が出来るんですか?」と問うたのに対し、鈴鹿は「…瓦礫撤去とか」春子に「箸より重いもの持ったことない鈴鹿さんが?」と切り返されている。

第136回。純喫茶アイドル。とうとう「北三陸に帰りてぇ!」と言い出したアキに、春子は「ぜんぶ中途半端!海女も、潜水士も、アイドルだって」という。しかし、本当に中途半端なのだろうか? 海女としては、絶滅寸前だった「北の海女」を復興させ、海女カフェも作り、フォロワーも残した。潜水士もちゃんと免許はとった。アイドルとしても、主演映画を残し、CDも出した。

春子のいうようにB級アイドルかもしれないが、そもそもアキの眼中にトップアイドルになることはない。鈴鹿さんとの「一緒にお芝居しましょうね」という約束も果たし、GMTとの共演もはたした。そもそもアキにとってアイドルとは「人を笑顔にすること」なのだ。今、笑顔にしなければいけない人は北三陸にいる。

この時春子はどうしたかったのだろう? アキの「そうしたい(東京に残りたい)んだべ?」に無理やり頷かされてしまったようだけど、アキのいない東京で春子は何をしたかったのだろう? ユイに会ったとき、アキは「ママはママのやりでえごど見つかったみでえだし」と言う。春子のやりたかったことというのは何か? この問いが私に「天野春子論」を考えさせるキッカケとなった。いずれ、まとめる。

このシーンのラストにこんな台詞が。水口が「僕は納得いかない!」と言い出す。「こんなもんじゃないもん!俺のGMTは!」「だから延期、GMTプロジェクトは俺ん中で、中止じゃなくて延期だから…」ここでGMTを持ち出すのがよくわからなかったが、これが後に水口が北三陸に向かう布石になっているようだ。

テレビ局のスタジオに鈴鹿ひろ美を訪ねて挨拶をするシーン。ここでは、鈴鹿がどんな撮影に入っているか、シナリオにはまったく書かれていない。ドラマでは宇宙服で月面を歩くという、奇想天外なシーンなのだが。ここでアキが「あんな(向いてないけど続けなさい、という)有り難でえお言葉頂いだのに、オラ、才能ねがったみでぇだ。リタイヤします」と言っている。この台詞は、放送でカットされたが、それでよかったと思う。

実は、この時アキはアイドルを辞めるとか、引退するとかいう言葉を他には一切発していない。春子に対しても「諦めるわけじゃねえんだ」と言っている。鈴鹿にも「2、3年で帰って来るがもしんねえす、2、3日かもしんねえす」と帰ってくる意志を表明している。だから「リタイヤ」という言葉は似合わない。もともと、上京する際も海女は辞めるのではなく、中断しただけだった。この時も、アイドルは辞めるのではなく、中断する、と考えたほうがふさわしい。

この後、アキは太巻のオフィスを訪ねて挨拶をするのだが、ここで太巻は「…いじわるしちゃってごめんな、天野」と謝っている。アキは忘れたのか、空とぼけたのか「オラぁ、なんか、されましたっけ?」と返している。

無頼鮨での送別会。ここに宮下アユミが参加していたが、台詞がなくてちょっと可哀相だった。シナリオでは、子供の名前を聞かれて「鳴門海峡の鳴るに人で鳴人(なると)です」と答えたりしている。

震災発生から3ヶ月余り。よくこの時期を選んだものだ、と思う。じっくり思い悩み、自分に何ができるのか考える時間はあった。と同時に、それが見えないこともわかる時間が経過していた。さらに、アキの仕事面でも、この時期なら周囲に迷惑がかからないであろうという判断ができる。予備校のCM契約は1年間。あと1ヶ月余りで終了する。さらに追加の撮影などはないだろう。教育テレビの子供番組も、1年の契約と考えれば、1ヶ月分の撮りだめで問題はない。しかも、海開きを翌週に控えた6月末。何ができなくても海女として潜ることはできるはず。

第137回。バスで北三陸へ帰るアキの荷物から、空き缶の音がしていた。たぶんないだろうと思っていたが、シナリオにはこのような音の指示はまったくない。演出か、音響効果の発案によるものだろう。

観光協会に入ったアキは、ジオラマの海女カフェの模型を床から拾い上げる。しかしこれは、震災直後の第133回ではジオラマの上に乗っていたのだ。誰か復旧作業の途中に引っかけて落としてしまったのだろうか?

アキが北三陸に帰還することにより、視聴者もまた北三陸の懐かしい面々に再会することになる。ドラマの中で震災が起こって以来、夏ばっぱと大吉・吉田・ヒロシを除いて、その安否はあえて描かれてこなかっただけに、安堵した人も多いだろう。一部の人々は津波で家を失ったと語られるが、それらの被害状況も海女カフェを除いて描写されることはなく、避難所や仮設住宅も登場しない。それを「あまちゃん」の欠陥としてしたり顔で語る人もいたが、私はそれでいいと思う。ドラマがどこを描くのかは、その物語のテーマとかかわる問題だから。

被災した海女カフェ。出迎えの時にはいなかったユイがいつの間にか合流して、「海女カフェ、復活させっぺ」というアキの言葉に「無理だよ」という。なぜそんなことを言うのかが、シナリオの中で語られていた台詞でわかった。「元に戻ったとしても、怖がって誰も来ないよ。地元の人ですら逃げて行っちゃうんだもん」

袖ヶ浜駅。アキが「こごが一番いい所だぞって、ユイちゃんに教えるためだ!」と言った後、ユイは「大好きなアキちゃんがそう言うなら、信じようかな」と言うのだが、その後につづく台詞があった。「私もここ、好きになる」好きになった、ではなく、これから好きになる、と言ったのだ。梨明日のバイトをしたり、海女になったりした1年余りの後で、これから好きになる努力をする、と言ったのだ。アキはそれに対して「おらも、ユイちゃんがいる限り、こごが一番好きだ」と言う。では、ユイがここを去ったら、アキはどうするのか?

海開きのシーン。ここで、かつ枝と花巻だけが、柄の違った絣半纏を着ている。彼女らは、津波で家を失ったから、新調したものだ。放送時には一切説明がなかったが、目立つ違いになっていた。シナリオには、ちゃんと会話でそのことが記されている。

震災を経て、帰郷。そして、新しい目標へ。シナリオ集の表紙には「東京編~そして"帰郷"」と書かれているだけで、特に○○編という名称は決まっていないらしい。しかし、ここから「あまちゃん」は終結に向かうどころか、新しいステージに入ったことはたしかだ。とりあえず「帰郷編」と呼んでおくことにする。

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