テレビ番組評

「情熱大陸/山口絵里子」をみた

2010/12/11

情熱大陸という人物ドキュメント番組には、あまりいい印象を持っていなかった。

30分という枠で「何を描きたかったのか、何を伝えたかったのか」というのが明確でない回が多かったからだ。特に有名人をとりあげた回にその傾向が強かった。

今回とりあげた人物はバッグデザイナーの山口絵里子という26歳の女性である。まったく知らなかった人物だ。
「アジア最貧国」といわれるバングラディシュ在住で、バングラディシュの素材と職人で自分のデザインしたバッグを作り、それを日本の店で販売する、というビジネスをしている。

バングラディシュという国には日常的に痛い目にあっているようだ。仕事の進め方が遅い、約束をたがえるなどは日常茶飯事で、騙されたり盗まれたりしたこともある。しかし、デザイナーとして経営者として、笑顔を浮かべながらそれに対処していく彼女の姿が描かれる。

どこかで見た笑顔だ、と思った。実は同じ日の夕方に「誰も知らなかった高橋尚子」という番組を見ていた。高橋尚子の笑顔はあまりにも有名だ。表情は少し違うのだが、そこに共通するものを感じた。

高橋尚子のキーワードとして「あきらめなければ夢は叶う」という言葉が紹介されていた。これには強烈な違和感があった。一位でゴールを切ってこう言うのならわかるが、結果は惨敗だ。北京の代表にはなれなかった。夢は叶わなかったじゃないか…。ただ、高橋はどうやら、「夢」という言葉をちがった意味で言っていたようだ。五輪に出場して、メダルを穫るということ自体がもはや高橋の「夢」ではないらしい。それはもうすでに成し遂げたことだからか。自分から何かのメッセージを発し、それを受け取ってくれる人々がいる、という関係性の中に「夢」を見いだしているような気がする。

山口絵里子は、デザイナーとして自分の作品を世に問うことにも、経営者として事業を拡大していくことじたいにも、さほど夢を感じているようではない。それは彼女にとって手段でしかないようだ。目的は、バッグ生産という事業をバングラディシュに根付かせることで、貧しい人々に仕事を与え、生き甲斐を持たせていく、ということであるようだ。

番組中山口のパートナーであるバングラディシュ人が「日本や国際機関が無料で与える援助は、我々を乞食にするだけのことだ」と語っている。

バッグや事業だけではなく、国際関係も山口のデザインの中でつくりあげられていく。弱冠26歳の女性ながら、クリエーターであり、ビジネスウーマンであり、国際ビジネスのコーディネーターでさえある。それを気弱な笑顔を浮かべながら、自然体で乗り越えていくところに好感が持てる。すごい人だ、と思ってしまう。

番組のエンドで、スタッフが山口に「痛い目に遭いながらなぜ続けていくのか」と問いかける。返ってきた答えは、「あきらめたくなかったから」。高橋尚子と同じキーワードがここで出てきた。「あきらめなければ夢は叶う」だ。

なるほど。ふたりの笑顔に感じた共通性は、そういうことだったのか。

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