映像表現の研究

「寄り」に頼る気持ち

2010/12/21

DigitalARENA 地デジPeopleに「映画のような「引き」の構図を楽しんでほしい~NHK大河ドラマ『功名が辻』大加章雅チーフ・プロデューサー(2)~」というインタビュー記事があり、こんな談話が載っていた。

――ハイビジョンの普及にともなって生まれた、新たな撮影技法などはあるのですか。

大加:新しい技法というわけではないですが、主に映画で使われていた見せ方がテレビでも効果的に使えるようになりました。たとえば「引き」、つまり少し離れて被写体全体、あるいは複数の被写体をルーズサイズで撮影するやりかたです。数名の人物による会話シーンを例にあげれば、アナログ時代には誰かが口を開くたび、話者の顔を切り返して行くことが一般的でした。テレビ的な手法の特性もアップ論の方向で進化していったのです。それがハイビジョンでは、引いて撮影しても表情がよく見えるため、寄ったサイズで切り返さなくてもよくなってきたのです。

まあ、そういうこともあるだろう。

これは別にハイビジョンだから出来るようになった、というわけではないように思う。ハイビジョンになって、気がついたということに過ぎない。

逆に従来のテレビが「寄り」を使いすぎていたというようにも考えられる。たとえば映画をDVDで見ているとき「引き」の画面が多からといって、伝わらないという経験は少ない。(それは映画やハイビジョンで見ているよりは、失われる情報が多だろうけどね)

なんとなく「寄り」を入れないと伝わらないという、危機感のようなものが制作側にあると思う。その結果、常に表情がわかるような「寄り」の画面を多用するようになり、今のタイト-タイトを繰り返すテレビ的なカット割りが生まれたと思われる。

人間の視界というのは、必ずしも「寄り」を見ているとは限らない、ということも考えておくべきだろう。どちらかというと「引き」で場面をとらえているのが普通の人間の視覚的習慣だ。

ハイビジョンだからといって「引き」が使えるようになったのではなく、「寄りがないと伝わらないんじゃないか」という制作者側の呪縛がハイビジョンによって解けた、というのが真相だと思う。

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